~はじめてのトカゲのおつかい~
1964年の年末、ドン・ファンにせっつかれカルロスは再度、トカゲを使った占いを行います。
ダツラの伐採をはじめ複雑な手順をノートを見ながら行いますが、やはりトカゲの捕獲で往生します。
トカゲ話しかけなければいけないという指示を思い出して話しかけると、なんと二匹連続して見つけることができました。
どんな話をしたのでしょう?
「ばかばかしいと思いながら」と書いてあるので、「トカゲちゃん出ておいで」みたいなフレーズでしょうか?
ここでまたトカゲの種類に立ち返ります。
日本語版で、
「ばかばかしいと思いながらもトカゲに話しかけてみてから石を持ち上げたら」しびれたようになって動かないトカゲを見つけたとあります。
石の下にいるトカゲってやはり小さいんじゃないのか?と思いました。トカゲ手術インチキ説を打破するためには、そこそこでかいサバクイグアナでなければいけないわけです。
いずれにせよ、カルロスの手の力だけで持ち上げられる石です。それほど大きなものではないはず。
原文を確認しました。
I lifted a rock
とあります。幸いにもstone(石)やpebble(小石)ではありませんでした。
それにしても「話しかけた」まじない効果で都合よく麻痺して動かないトカゲってのも不思議ですが・・・。
「口と目をぬい合わせるのは最もむずかしい仕事だった」とある例の手術を済ませて一匹を逃がすと北東に逃げて、これは、良いが困難な体験の前ぶれだそうです。
ドン・ファンの話には「方位」関する霊験が多く登場します。
神秘的な行為や現象に方位は欠かせない要素なのでしょうね。
ところで、カルロスは占いの際に、ダツラ・ペーストを塗り込んではいけないと言われていた額にうっかり塗ってしまいますが、無事「帰還」します。
「額の中央に塗るのは、まずかったが無事だったのはおそらくおまえがひどく強いか、草がお前を気に入ったかどちらかだな」とドン・ファンが分析します。

(左)とヤヒ族のインディアンのイシ
このエピソード。仮にフィクションだとすると、もうすこしドラマチックな展開にすると思うのですが、あっさりしています。思いますに、やはり微妙に事実と虚構を織り交ぜているのではないでしょうか?
自分にお告げを話すトカゲは、体に結び付けてあります。ラリってる状態の中、トカゲはミニチュア人間のような声で話します。
(正しくは、映画に出てくるミニチュア人間のような、・・・)
占いのテーマは、盗まれた本についてのものでした。カルロスが聞いた内容の中に以下のようなエピソードがあります。
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アルフレド・クローバーの名前が頭に浮かんだ。
それがクローバーではなくてその諸説を発表したのはジョージ・ジンメルだぞと『言った』。
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アルフレド・クローバー(Alfred Louis Kroeber、1876年6月11日 – 1960年10月5日)というのは、アメリカの文化人類学者だそうで、なんと、あのSF作家の―というより一般の方々には『ゲド戦記』のと言った方がいいかも―アーシュラ・K・ル=グゥインのお父さんだそうです。
インディアンの文化を研究した人だそうですので、ダツラの作用で連想したのでしょうか?
当然、カルロスもヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞の気鋭のSF作家、ル=グゥインについては知っていたかもしれませんね。
(今、調べたら『闇の左手』が1969年。ドン・ファンの教えが68年出版)
私も全部とはいいませんが、SFマガジン連載時にたくさん読みました。
ジョージ・ジンメル(Georg Simmel、1858年3月1日 – 1918年9月26日)は、ドイツ人の哲学者・社会学者です。
『ドン・ファンの教え』の碑文(エピグラフ)に彼の言葉が引用されています。
トカゲが報告した「諸説」とは何についてのことだったのでしょうね。
(初出:2016年7月23日「はじめてのトカゲのおつかい(教え9もうひとつのトカゲの呪術」)