私は、1978年から80年の2年間、USの大学に留学をしていました。2学期目のある授業でグループ課題が出た時、T.S.という男子学生とペアになりました。
一緒にやるようになったきっかけは忘れましたが、後でわかったのは彼は「はじめに」で書いたようなカウンターカルチャーマニアで元々東洋思想に入れ込んでいたので彼の方から東洋人である私にアプローチしてきたのかもしれません。
課題発表に向けて二人で長い時間を過ごしているうちに、プライベートでの付き合いも始まりました。彼の両親はカリフォルニア出身でした。母親のジェーンは、地元で太極拳のワークショップを開いていました。勉強疲れで肩こりが酷かった私は、彼の勧めに従って肩こり解消体操のつもりでジェーンの教室に入門しました。
ジェーンの師匠はカリフォルニアにいる中国人のコリオグラファーで、彼の本も所有していたのですがいつのまにか散逸してしまいました。
驚いたことに彼女のクラスでは休憩時間に「老子」を朗読しました。この母親の子供ならいかにも東洋神秘思想マニアになるなと納得しました。
T.S.からは、カスタネダの他に易経(I CHING)やチーチ&チョン(Cheech & Chong)など面白ネタをやまほど詰め込まれました。帰国後に『スネークマンショー』がチーチ&チョンにインスパイアされたものだとわかったのもT.S.のおかげです。何年か経って、彼が結婚して仏教徒になったことを知りました。
当時、カスタネダは存命で、一度だけラジオ番組に出演、生の声を聞いたことがあります。 謎につつまれた人物の声を聞けただけでもなにか得をした気がしました。
その時も、T.S.が「今夜、カスティネーダ(米語では、このように発音します)がFMの番組に出演するぞ!」と興奮した声で電話をくれたのです。
カスタネダたちが用いた幻覚材メスカリトは、ペヨーテというサボテンから採取するそうです。
余談ですが、メスカリトは、1990年代にオーム真理教が人工的に密造していた幻覚剤「メスカリン」の天然の素材です。
カスタネダは、最初は単にインディアンのドラッグを試してみたいという不純な動機でドン・ファンに近づいたのかもしれません。
彼の本の中では、メスカリトは「人格」を持つサボテンの精でトリック・スター(いたずら者)のようなふるまいをします。
ある折、伊豆のサボテン公園を訪れたとき園内の植物の専門家の方にこのサボテン「ペヨーテ」について教えを乞うたことがあります。
一般客からマニアックな質問を受けて興がのったのか面白い話を聞かせてくれました。ペヨーテは、国内では「烏羽玉(うばたま)」という名前で普通に売られている観賞用のサボテンであること。そして、日本の風土ではメスカリトは作れないこと。どうやら砂漠と関係があるらしく、国内のサボテンの専門家の間ではペヨーテツアーを企画して訪米している人々がいるらしいことなど、教えてくれました。
実際に、園内の売店で売られていた可愛らしい「うばたま」を買い求め、自宅で育ててみましたが、しばらくすると根が腐ってしまいました。
メスカリトに叱られるのでは?とちょっと心配になったものです。
(初出:2006年5月25日「カルロス・カスタネダ」、改訂:2023/5/23)