~コクゾウムシ~
続く、6章では、気の毒なトカゲではなくカルロス自身が「飛行」します。
「飛ぶ」時も「呪術の薬」は、トカゲの占いの時と同じダツラをつかったペースト(練り粉)をつかいます。占いの時と原材料は微妙に異なるようですが、どちらにも共通しているのは「コクゾウ虫」です。
このコクゾウ虫は、デビルズ・ウィードの種と種から取った生きているものを使うそうで山盛り使います。
これらを用いた謎のペースト作りの手順が例のごとく非常に細かく書いてあります。
とはいうものの、後の章で展開される「きざみ」を私たちが作れないのと同じで、この本を読めば呪術師の薬を作ることができるかといいますと肝心の情報は書かれていません。
当たり前ですよね。秘伝のタレをそうやすやすと教えられますか?
しかも素人が扱ったら毒なわけですし、試すにしても常に師匠立ち合いで服用なり塗り付けるわけですから。
私がカルロスでも、様々なフェイクを各所に入れると思います。固有名詞や時間、場所。そしてもちろん薬の材料や呪術の進め方。そしてドン・ファン自身のプロファイル。
だから、本当は、コクゾウ虫じゃなくてゴキブリかもしれません。
ここでは一応コクゾウ虫を信じることにしますが、英語名がweevilというそうです。
むむ。名前にevilがついているのでシャレでしょうか?
ということで呪術一般でコクゾウムシを使うことがあるのか、いろいろ検索してみたのですが『ドン・ファンの教え』以外にかかってきませんでした。
コクゾウムシのエキスがたっぷり入ったペーストを体中に塗ったカルロスは、バネ人間のような感じになって空へ舞い上がります。(教え151P)
自分が飛んだときどう見えたか、ドン・ファンにしつこく尋ねますがとりあってくれません。
本当のところどんな感じに見えるのでしょう?
後に出てくる「煙」の体験の時には、傍から見た場合についてちょっとだけ伺い知ることができます。
このペーストは強力な薬ですが、主役はあくまでもデビルス・ウィード。
コクゾウムシは「つなぎ」みたいなものでしょう。
ところで、ダツラを採るときのリチュアル(儀式)の一環で、カルロスはそのまわりで踊らなければなりません。
雑草の周りで踊ってるところを人に見られたくなかったので暗くなるまで待ったとあります。
これに似た情景描写で、近所の人間がカルロスたちを不審に思い見に来たのかもしれない、といった記述がたまに登場します。
このことからカルロスたちは秘境ではなく「里(さと)」で活動してることがわかります。身体を洗ったりする灌漑用水路も登場することがあるので、ドンファンの家は農村にあるのでしょう。
このあたりの日常と非日常の関係がとても本当っぽさを感じさせます。
(初出:2016年7月19日「コクゾウ虫 (教え 6ダツラでの飛行)」)