メタ・ドキュメンタリーのドキュメンタリー化

『分離したリアリティ』で「ロス・ヴィドリオス」の”探索”を行っていて自分のことで認識したことがあります。

私が、もともとメタ・ドキュメンタリー(フィクション)のドキュメンタリー(ノンフィクション)化が大好きだったということです。

扶桑社が94年にホイットリー ストリーバーの『コミュニオン―異星人遭遇全記録 』の邦訳を出してました。

ホイットリー ストリーバーといえば、『ウルフェン 』とか『デイ・アフター・トゥモロー 』を著した売れっ子作家ですが、実はオレ宇宙人にさらわれてたんだ。って告白をして大騒ぎになりました。

一時、出版界から干されていたというエピソードを読んだことがあります。発刊当時、何気に手にした『コミュニオン』を開いて衝撃を受けました。

ネタは??なんだけど、ド真面目なんですよね。
書きっぷりが。あんまり凄いので続編の『遭遇を超えて』まで買っちゃいました。

このテのメタ・ドキュメンタリー(こんな用語ありません。私の造語です)は、とにかく面白い。

私のオススメは、まず人間のクローンを作り出したドキュメント『わが子はクローン 』 (デイビッド・M. ロービック著)。

 ある大富豪が金にあかして自分のクローンを作る計画を進めるにあたり、科学記者であった著者を雇って記録させたという「実話」。たまにテレビでもネタになってますね。
このロービックも科学記者界から干されたそうです。

SFやファンタジーが好きだってことは、きっと夢想しがちで空想の事象がどこかで現実になっていることを心の底で願っているのでしょう。

SF作家、半村良の著書に名作『小説 浅草案内』というタイトルがあります。
わざわざ「小説」と書いたのは題材にされた人やお店に余計な迷惑がかからないだろうという配慮と思い、作品で扱われているお店を実際に自分の足で確かめたことがあります。ロス・ヴィドリオスを現地で確認するような感じです。

浅草ROXの中に書店がありまして、そこでしか売っていない地元発行の浅草の地図というものを見つけました。
これを買い求めて、半村良の本とくびっぴきになってその内容から、この店はこのあたりに違いないとあたりをつけてフィールドワークに出かけました。

中でも忘れられないのが言問通りと千束通りが交わるところにある「正直ビヤホール」です。
小説の中でもビールの味が絶賛されていて”実在”しているのなら絶対に飲みたいというので万難を排して(要するに職場を早退させてもらい)一人ででかけたことがあります。

下見の段階で「とても入りにくい店だ」と思ったので開店早々を狙いました。
開店早々ですとお店の方々も余裕があるし常連も到着していないのでこちらも入りやすいというわけでして。

小説に登場するご主人はすでに亡くなられていまして、奥さんが後を継がれて店を続けていました。『小説 浅草案内』を読んで来たことを告げると喜んで歓待してくれたのが忘れられません。

しばらく通ってずいぶんと良くしていただいたのですが、仕事が忙しくなってその後すっかり遠ざかってしまいました。初めて訪れたのが、記憶があいまいですが1997年です。

文庫の発行が1988年、元が雑誌連載記事なのでさらに数年前の執筆と想定すると、私が訪れたのは半村良が浅草の検番近辺に住んでいた時期から15年以上経っていたことになります。

昔のブログ記事を読み直してみると前に『浅草案内』に触れた記事では私はお店の名前を明かしていませんでした。

そして今回は具体名を書きました。
これは一体、どういった心境の変化なのでしょう?

まるでカルロス・カスタネダの固有名詞の記述の変遷と同じ流れではないですか?

(初出:2010年5月28日「メタ・ドキュメンタリーのよろこび」)