1971年の秋。カルロスが久しぶりにドン・ファンを訪問します。
この本で具体的な時期について書いているのは、ここだけです。
二人で、これまでのおさらいをしていると、幻覚性植物は実は「方便」として使っていただけで呪術の修行に必須のものではなかったと明かされます。
実際にドン・ファンのもう一人の弟子、エリヒオは植物を一度しか使わなかった、と言われ驚きます。(力10)
この本で久々に、あのエリヒオの話題が出ました。(以前は、”エリジオ”となっています。スペイン語でJの発音はヒですが、英語読みですとジです)
呪術師の修行内容についてカルロスが出版することについて、そのような奥義を明かすのはよくないことではないかという指摘を受けた話をします。
カスタネダは、ここで仏教の密教との対比をするので、カスタネダが東洋哲学を研究していたことがうかがえる一節になっています。
カルロスはドン・ファンに夢見の進み具合について聞かれ、カルロスが自在に内部の対話をとめられるようになったようだといわれ「内部の対話」を止める訓練に効く練習方法を教わります。(力21)
それは、どこにも目の焦点を合わせずに長い距離を歩くことで、わずかに寄り目にして視野に入ってくるすべてのものをその周辺部で捉えるのだそうです。(力21)(体術)
立体視の目の使い方ですので、私も、これを実際にやってみましたが、結構目がクラクラしますのであまりマネしない方がいいと思います。空間の奥行きが不思議な感覚になりますが、盟友は見えません。
瞑想の基本と同じといったら身もふたもないですが、呪術師の世界への道は、戦士が内部の対話を止めることを学んで初めて開けるのだそうです。(力22)
そんな「瞑想」をしていると、灌木の中に人間のシルエットを見た気がし、それから巨大な黒い鳥のような空を飛ぶ生き物がかん木の中からカルロスに飛びかかってきます。(力25)
これは、のちにカスタネダがflyerと呼ぶものだと思います。
恐怖にかられたカルロスは、気持ちが鎮まるまでその場で足踏みをしてから座り込みます。(力26)(体術)
ドン・ファンは、彼に強い口調で何事もなかったかのようにふるまえと言います。(体術)
これまで、あまりピックアップしていませんが、この「何事もなかったかのようにふるまえ」という指示がシリーズではよく登場します。
ドン・ファンがカルロスがみたものは「蛾」だったといいます。(力26)
今夜のカルロスには蛾との約束があって「知というのは蛾なんだ」といいます。
不安なカルロスを落ち着かせるためにドン・ファンが頭をゆらして目を使います。(力27)
「お前もやってみろ」といわれますが、上手にできないでいると「胃の下あたりから目に伝わる感覚が頭をふらせるのだ」といわれます。(体術)(力27)
シカやコヨーテと話した経験について話したあと、ドン・ファンがふたたび蛾を呼び出します。
奇妙な音を立てる蛾の羽には黒っぽい金粉がついていて、それは、知識の粉なんだと言います。(力40)
奇妙な感覚にとらわれたままカルロスはキノコのような姿に見えた知人の幻影をみます。カルロスは、ドン・ファンの指示のまま次々と人(の幻影)を呼びだします。
その中には、弟子のエリヒオやパブリートがいました。(力49)
47人を呼び出したところで、ドン・ファンが全部で48人必要だといいます。
カルロスは、そういえば呪術師が持っているトウモロコシの実は48粒だと昔いっていたことを思い出します。(力50)
その48人目というのは、ヘナロだと言われてて「呼び出してみる」と目の前にいきなりヘナロが現れます。驚き慄くカルロスですが、これはすべて仕組まれたいたずらだとドン・ファンたちを疑います。
これまでいくども突然、登場するドン・ヘナロの遍在性に驚愕しているカルロスにドン・ファンがヘナロは自分の分身になれる、と告げます。(力57)
これは、今後のカスタネダの活動で重要な要素となる「ダブル」のことだなと思い、あらためて原典にあたってみますと、なんのことはない、この『力の話』でも”double”でした。
和訳の作法の違いに長い間すっかりだまされていました。
ドン・ファンがいいます。
「何年か前にお前がヘナロと知り合ってからいままで、お前が本物のヘナロと顔を合わせたのはたったの二回なんだぞ。それ以外は、お前と一緒にいたのは彼の分身なんだ」(力61)
自分の分身が他の場所にいることについて「現実的な」疑問を呈するカルロスにドン・ファンは、呪術師は自分が同時に二カ所にいるなんてことは考えないのだといいます。
「確かに、呪術師は自分が同時に二カ所にいたことにあとになって気づくかもしれん。だが、それは単なる記録で、呪術師が行動しているときに自分の二重性など意識していないという事実とは関係のないことなんだ」(力64)
このドン・ファンの言い回し。どう思います?
初期のドン・ファンとだいぶ違いますよね。超インテリ?
「寅さん」シリーズで初期の荒っぽい寅さんと後期の作品の優しげなキャラが全然違っているみたいな感じです。
分身のことを突き詰めるとカルロスは気が変になりそうになってしまいます。
(初出:2016年11月20日)