(日付は不明で、前回、ドン・ヘナロたちに翻弄された事件から数か月後となっています(力136))カルロスはメキシコシティにいました。
彼は、ダウンタウンへ向かってレフォルマ(Paseo de la Reforma)通りを歩いていました。(力134)
ゾカロ(Zocalo)広場を経由してラグーニャ広場(Lagunilla market)へ向かうと驚いたことにドン・ファンにばったり出会います。
さらにおかしなことにドン・ファンが三つ揃いのスーツを着ていました。
はじめに見た時はたしか、普段着(カーキ色のパンツにシャツ、サンダルに麦わら帽子)だったのに。しかもヘアスタイルは、短い白髪を右側で分けていました。
二人は、公園を求めて、プラザ・ガリバルディ(the Plaza Garibaldi)に行きますが、更に静かな場所を求めてアラメダ公園(La Alameda)に行ってベンチに座りました。
やはり地名が示してあると盛り上がります。
ドン・ファンは、イギリス製の厚手のフランネルスーツを着た祖父くらい見栄えがよかった、とあります。(力139)
マーガレット・カスタネダの本によるとカスタネダは、市井の発明家だった祖父が大好きで尊敬していたとあります。
ドン・ファン創作説に立つと、ドン・ファンはこの祖父のイメージで作られたのではないかという連想になりますので、「祖父くらい見栄えがいい」のは当然です。
ドン・ファンは、二人がここで出会ったのだから後は予兆を待つだけだといいます。(力138)
彼らが坐っているベンチから直線で二十メートルくらい離れた公園の端に人だかりがあって、彼らは草の上でじっと横になっている男を囲んでいました。(力141)
ドン・ファンが、カルロスの友達と飼いネコのエピソードを話してくれるようにいいます。
その話とは、自分の飼い猫を飼い続けることができなくなった友人が二匹を安楽死をさせるために病院へ連れて行ったが、二匹の内、マックスが逃げ出した、カルロスがその姿に「ネコの魂」を見た。といった話です。
この要約だけでは伝わりませんが、生き物の生と死について考えさせられる印象深い話です。特に、エピソードに対するドン・ファンの「解説」が秀逸です。
カスタネダは、こうした単発で意味深なエピソードや寓話を作るのが巧みで、他人から聞いた小ネタを膨らませてとんでもない話に改造したりします。
ドン・ファンは、この話を引き合いにして戦士の「信じる」態度についてカルロスに説いて聞かせます。
このような語り口は『無限の本質』やフロリンダ・ドナーの『魔女の夢』に似ています。
ドン・ファンが公園で遠くに横たわっている男は死にかかっている、といいます。(力147)
男のまわりを死がぐるぐる回っているのが見えるそうです。
ドン・ファンが、カルロスが覚えているセサル・バレホの『白い石の上の黒い石』を朗誦してくれといいます。
怪しいな。ドン・ファン、どんどんインテリになってますよね。
下の写真の公園です。死がぐるぐる回っていたのは。
(初出:2016年11月22日)
