今回は、肝心のトナール、ナワール談義の詳細は、このブログの興味からはずれているので省略して三章、まとめておさらいします。
トナールの島
二人は、翌日も同じアラメダ公園で会ってレストランに入って自分の全体性について話します。
普通、自分の全体性は話しませんが。
前に入ったアリゾナのレストランのようにウェイトレスの対応が悪いですが、ドン・ファンにかえって誰にも邪魔されずに話せるじゃないかと諭されます。大人です。
ここでドン・ファンは、はじめてトナールとナワールという言葉を口にします。
この二つは、カルロスも含め、多くの人たちが一度は、耳にしたことがある言葉ですが、ドン・ファンの話す内容はまったく違う内容でした。
トナールは、私たちが知っているものすべてなのだそうです。
トナールの日
二人はレストランを出て、道行く老婦人や貧しそうな若者など通行人をみて世界の成り立ちについて会話を続けます。
ドン・ファンが言います。
「実在性を明らかにするのがトナールで、それに効果を及ぼすのがナワールだ」(力183~184)
ドン・ファンは、ナワールは、創造性の元だといって手のひらの上に、日本人そっくりのメガネをかけたリスを出してみせます。(力185)
ドン・ファンは通りかかった若い女性を「正当なトナール」だとカルロスに教えます。(力188)
トナールを縮める
この章のエピソードは、『力の話』のハイライトの一つです。
カルロスは、水曜日の朝(何年何月何日の?)、9時45分を過ぎた頃にホテルを出でドン・ファンと約束した場所へ向かいます。
カルロスと朝食を一緒にとった友人がこっそりカルロスの後をつけてきているのに気がつきました。
待っていたドン・ファンがカルロスの窮地に気がつくとレフォルマ通りと斜めに交わる通りを指さしましたた。
航空会社のオフィスがあるビルの入口でドン・ファンに急に背中をおされ航空会社のオフィスの中をよろめきながら突っ切ってレフォルマ通りに出るドアまで進んで表にでてしまいます。
カルロスが目を開くと、1マイル半も離れたラグーニャ市場(Mercado Lagunilla)にいたことに気がつき愕然とします。
市場では、コインと古本の店があることに気がつきます。
ドン・ファンが頭を軽くたたいて「カルロス、正気をなくすんじゃないぞ」と言います。
カルロスは、想像を絶するような不安を感じ涙が頬をつたいます。
ラグーニャ市場を出てアラメダ公園へ行くと午前10時20分でした。
ドン・ファンに会ったのは10時過ぎのことでした。
地図をご覧ください。ラグニーニヤ市場からアラメダ公園までは、約1.56キロ。丁度1マイル(1.6キロ)くらいです。

大人が歩く速度を時速4.5キロとすると、1時間で4.5キロ。1.5キロなら丁度、20分。
上記でカルロスが歩いて公園までたどり着くのに要した時間とピッタリです。
ドン・ファンに突き飛ばされてからラグニーニヤ市場に瞬間移動したことになります。
カルロスがよろめいて入った航空会社は、ラグーニャ広場から「1マイル半」離れているとあるので、カスタネダが書いた内容が厳密だと仮定すると、この「航空会社」のオフィスはラグーニャ広場から「半マイル(800メートル)」離れていることになります。
航空会社~ラグーニャ広場=1.5マイル -(ア)
ラグーニャ広場~アラメダ公園=1.0マイル -(イ)
航空会社~アラメダ公園=(ア)-(イ)=0.5マイル≒800メートル
このあたりの航空会社のチケットオフィスを捜せばいいのですが、なにしろ当時から長い年月が経っています。
レフォルマ通りと斜めになっている裏通りの両方に接している土地にある航空会社・・・なのでしょうが、現在は該当するオフィスはないようです。
ただ、上記の記述から、アラメダ公園から約800メートルくらいのところの三角状の土地、図に示したあたりが怪しいのでは?

幻の世界にすっかり魅せられて(?)しまったカルロスは、奇妙な男のイメージや空飛ぶライオンを夢想します。
ドン・ファンによるとトナールを縮めてナワールが優勢になった結果、今朝のようなことが起きたのだといいます。
耽溺するカルロスを水の入ったバケツで覚醒させたドン・ファンは、今日は夕暮れまでこのベンチに座っていて三日のうちにヘナロの家までこいといわれます。
去り際のドン・ファンにスーツのことをあらためて聞くと「わしは株主(stockholder)なんだよ」と答えます。
後期の作品では、ドン・ファンが本当に「仕事」をしていたという記述があるので実は裕福な投資家だったなんて想像も楽しいものです。
さて、翌日、木曜日の朝、件の友人に前日カルロスにまかれた場所まで歩いてくれと頼まれます。
航空会社のドアからラグーニャ広場まで35分かかりました。
市場で昨日見かけたコインと古本を売っているスタンドをたずねると日曜しか出ていないといわれ茫然とするカルロスでした。
(初出:2016年11月23日)