60年代の文化人たちにカスタネダの著作が影響を与えていた良い例として表題の『山んばと空とぶ白い馬』(いぬいとみこ著)を紹介します。

雑誌に連載していた作品だそうで、連載物にありがちな冗長さはありますが、非常に興味深く読んだので記しておきます。
『山んばと空とぶ白い馬』は、76年の発行、山に別荘を建てた新人作家の生活を描いたファンタジー作品です。
タイトルに登場する白い馬が自然の「象徴的」存在であるのに対し、山んばは、非常に現実的な存在として描かれています。
超常的能力を持ちながらきわめて日常的な存在でもあり、山村の人々と適宜交流を持っています。
読み進めるうちに、山んばが、誰かに似ている。山の生活初心者の作家の立場も誰かに似ている!
作家がカスタネダ。山んばは、ドン・フアンです。
作家は、山の生き物の導きで「キノコ」を食べて空を飛びます。

ドン・フアンのシリーズでもキノコやサボテンの力を借りて空を飛ぶ状況が描かれています。
余談ですが、小説のなかほどの山の風景の描写に「ホビットのすみかのような」という記述があります。
ホビットは、ドワーフやトロルと異なり、トールキンの創作したメタ人類です。「山んば・・」の著者いぬいとみこさんは、誰もがしってる「小人」のつもりでホビットを引用していますが、トールキンの著作を気に入っていたのでしょう。ホビットもカスタネダの作品にも共通している考え方はアニミズムです。
この作品も人間対自然という大テーマについて主人公が真正面から向き合います。
トールキンのThe Hobbitは、1937年の発刊。カスタネダの「ドン・フアンの教え」が出たのは1968年。
残念ながら著者のいぬいとみこさんは故人です。お話を伺ってみたかったところです。
(初出:2012年7月6日)