日本語訳のタイトルとサブタイトルの関係について記しておきます。英語版の原題と併記しましたので見比べてみてください。
二見書房版日本語版のタイトルは、すべて日本でつけたオリジナルです。
洋画のタイトルのつけ方と同じような考え方ですね。たしかに原著のままのタイトルだと商業的にいかにも厳しそうなので、ここはオカルト味で”呪術師”とつけたのでしょう。
日本語版の出版に関しては大人の事情がからんだ経緯がありましたので、別途コラムに記事をしたためました。
1.『呪術師と私 - ドン・ファンの教え』(1974年)

1974年10月22日 初版、1999年12月25日第27版
The Teachings of Don Juan: A Yaqui Way of Knowledge, 1968. ISBN 0-520-21757-8. (Summer 1960 to October 1965.)
日本語タイトルでは、原著のサブタイトル「A Yaqui Way of Knowledge,」が割愛されています。単純に翻訳すればヤキ族の知恵でしょうか。残念ながら英語のニュアンスとリズム感を日本語化できていません。
例えば次の英語ですと、
He is a man of knowledge.
意味は、「彼は知恵のある人」だ、ですが、ニュアンスは「知恵のかたまりだ」みたいな言葉です。単純なWise ManとMan of Knowledgeとでは印象がまったく違います。
私にカスタネダを教えてくれたT.S.は、賢い犬ををみるとふざけてドン・ファンにちなんでDog of Knowledgeとか言って喜んでいました。
この巻の後半は「フィールドノート」となっていて研究論文の付録のような体裁になっています。これは『教え』が学校の課題として提出されたものだからです。
2.『呪術の体験 - 分離したリアリティ』(1974年)

A Separate Reality: Further Conversations with Don Juan, 1971. ISBN 0-671-73249-8. (April 1968 to October 1970.)
3.『呪師に成る - イクストランへの旅』 (1974年)

Journey to Ixtlan: The Lessons of Don Juan , 1972. ISBN 0-671-73246-3. (Summer 1960 to May 1971.)
二巻目と三巻目は、原著のタイトルが日本語版のサブタイトルとなり逆転しています。もちろん商業的には「呪術」とつけた方が引きが強いですね。
特に、第3巻目『イクストランへの旅』というのはこのシリーズのクライマックスともいえる感動的な逸話になっていましてイーグルスの「Hotel California」の歌詞を想起させます。
4.『力の話』 (2014年)(太田出版)

Tales of Power , 1974. ISBN 0-671-73252-8. (Autumn 1971 to the ‘Final Meeting’ with don Juan Matus in 1973.)
この一冊だけ版権が異なっているためでしょうか、「呪術」や「呪師」という惹句がありません。また初期に出版された講談社版では『未知の次元』という原著とまったく異なるタイトルになっています。この版権のエピソードは、別の項で扱います。
5.『呪術の彼方へ - 力の第二の環』 (1978年)

The Second Ring of Power , 1977. ISBN 0-671-73247-1. (Meeting his fellow apprentices after the ‘Final Meeting’.)
6.『呪術と夢見 - イーグルの贈り物』 (1982年)

The Eagle’s Gift , 1981. ISBN 0-671-73251-X. (Continuing with his fellow apprentices; and then alone with La Gorda.)
7.『意識への回帰 - 内からの炎』 (1985年)

The Fire From Within, 1984. ISBN 0-671-73250-1. (Don Juan’s ‘Second Attention’ teachings through to the ‘Final Meeting’ in 1973.)
5巻目から7巻目までは、サブタイトルが原著タイトルで日本語のメインタイトルは日本オリジナルです。
8.『沈黙の力 - 意識の処女地』 (1990年)

The Power of Silence : Further Lessons of Don Juan, 1987. ISBN 0-671-73248-X. (The ‘Abstract Cores’ of don Juan’s lessons.)
9.『夢見の技法 - 超意識への飛翔』 (1994年)

The Art of Dreaming , 1993. ISBN 0-06-092554-X. (Review of don Juan’s lessons in dreaming.)
8巻と9巻は、原著のタイトルをそのまま日本語タイトルにして、サブタイトルが日本オリジナルです。
10.『呪術の実践 - 古代メキシコ・シャーマンの知恵』(1998年)

Magical Passes : The Practical Wisdom of the Shamans of Ancient Mexico, 1998. ISBN 0-06-017584-2. (Body movements for breaking the barriers of normal perception.)
11.『時の輪 - 古代メキシコのシャーマンたちの生と死と宇宙への思索』 (2002年)

The Wheel of Time : Shamans of Ancient Mexico, Their Thoughts About Life, Death and the Universe, 1998. ISBN 0-9664116-0-9. (Selected quotations from the first eight books.)
10巻目、11巻目は、タイトル、サブタイトルとも原著の通りになっています。
すでにカスタネダシリーズも有名になっているので無理なタイトルを考えずとも売れるだろうと考えられたのでしょうか。
本の内容も、「語録集」のような体裁で「聖書」や「論語」のような編纂物のようです。
12.『無限の本質 - 呪術師との訣別』 (2002年)

The Active Side of Infinity , 1999. ISBN 0-06-019220-8. (Memorable events of his life.)
最終巻のタイトルはサブタイも含め日本語版オリジナルです。
原著のタイトルを直訳すると『無限の活動的な側面』。
日本語のサブタイトルとは異なり「訣別」とは無縁の内容です。荒唐無稽な後期の中では原点に戻ったいい本だと思います。
(初出:2016年7月2日「カスタネダシリーズのタイトルについて」、改訂:2023/5/24「著書の原題・副題について」)