~幻覚性植物~
後に、シリーズが「創作」であると言われた要因のひとつに日付の矛盾があります。
それを見越してか、この序文では「対話と体験の記述で日付が食い違っていることがある」と書いてあります。
例えば、のっけから初めペヨーテを体験した日の話は8月7日の項目なのに、ドン・ファンとカルロスによる事後のおさらいは8月5日になっています。日記を書いている時は、それ以前のできごとを書いているからです。
もっと「致命的」な日時の齟齬もあるのかもしれませんが、私たち読者は、フィクション前提で読まれる方含め、だいたいこの頃という感じでよいと思います。
カルロスの妻だったマーガレット・カスタネダも自著で、カルロスの日付って意味があるのだろうか?と書いています。
ここで、彼が体験した幻覚性植物について一覧しておきます。
○三種類の幻覚性植物
1)ペヨーテ(Lophohpora williamsii)=メスカリト(Mescalito)

このサボテンについては「カスタネダとの出会い」のところでも触れましたが、日本でも普通に販売されていて栽培することができます。
ドン・ファンはメスカリトを人格的に扱います。
『知覚の扉』(オルダス・ハックスレー著)という本では、著者でもあるハックスレーが合法的にメスカリンの医学実証実験に参加した際の記録を読むことができます。
実は、カルロス・カスタネダは、この著者の大ファンでした。前述のマーガレットもカルロスがドン・ファン熱に浮かされる前から彼がこのテの話題に精通していたことを述べており、ひょっとしたらすべてが創作だったかもという疑念も生じますが、彼女はカスタネダが確かにインディアンに会っていたし・・・と判断を避けています。
2)ジムソンウィード(Datura inoxia;D.meteloides)

日本語サイトには情報が少ないので英語版ウィキから引きました。
ドン・ファンは、ジムソン・ウィードを「彼女」と呼んでいて、あまり気に入ってなかったようです。
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Datura stramonium, known by the common names Jimson weed or Devil’s snare, is a plant in the nightshade family. It is believed to have originated in Mexico,(後略)
ダチュラ・ストラモイウムは、ホウズキの仲間で一般的に、ジムソン・ウィードまたはデヴィルズ・スネア(悪魔の罠)として知られ、メキシコがその発祥の地とされている。
Datura has been used in traditional medicine to relieve asthma symptoms and as an analgesic during surgery or bonesetting. It is also a powerful hallucinogen and deliriant, which is used spiritually for the intense visions it produces. However, the tropane alkaloids responsible for both the medicinal and hallucinogenic properties are fatally toxic in only slightly higher amounts than the medicinal dosage, and careless use often results in hospitalizations and deaths.
ダチュラは、伝統的な医薬で、喘息の症状緩和、手術や骨折治療の際の鎮痛剤として使われる。また幻覚や妄想を引き起こすため精神的に強力なビジョンを得るために使われることもある。 しかし、医療と幻覚にまつわるトロパンアルカロイドは致命的な毒性があり処方を間違えると死に至ることもあるので注意が必要である。
彼の元妻、マーガレットは、自著でダツラ(ダチュラ)についても興味深い意見を述べています。その件については彼女の著書の項であらためて紹介します。
3)きのこ(おそらくPsilocybe mexicana)

カルロス当人も「おそらく」と書いてある通り、現場対応だったので学名などは不明なのでしょう。
仮に、「Psilocybe mexicana」とすると日本では「マジック・マッシュルーム」、「シロシビン」という名称のキノコのようです。
Psilocybe mexicana is a psychedelic mushroom. Its first known usage was by the natives of Central America and North America over 2,000 years ago. Known to the Aztecs as teonanácatl from Nahuatl: teotl “god” + nanácatl “mushroom.”
シロサイブ・メキシカーナは、幻覚性のキノコである。2000年前から中央・北アメリカの原住民の間で用いられている。アズテカ民族の間では、「神のキノコ」と呼ばれていた。
カルロスは、ドン・ファンの指導の下(2)のダチュラと(3)のキノコ(実際は、キノコを含めた様々な材料を混ぜて作られた薬)を使って力の獲得を手助けしてくれる盟友(ally)との出会いを行います。
○力の道具
ドン・ファンは「盟友」とは異なる「力の道具」についても触れています。
この道具については、1巻目の序文にだけ登場しますが以降は触れられていません。
彼が若いころ持っていた力の道具は、
・マイズ・ピント(Maiz-pinto)と水晶と羽
だそうです。
これも引いてみました。
ピント豆とは、「うずら豆」のことだそうですが、Maiz-pintoというとトウモロコシだそうです。
そういえばPINTOという安い車の代名詞のような車もありました。余談ですが、Netflixのヒット作『Stranger Things』では、主人公の一人、ウィルの母親、ジョイスが運転していて一家の経済事情がわかるようになっています。
マイズ・ピントとは、まんなかに赤い線のはいったとうもろこしの小さなつぶで全部で48個持っていたそうで、身体の中に入り込み人を呪い殺す恐ろしい道具だそうです。
ドン・ファンは、これら道具は盟友とは異なり、大したものではないと言います。
(初出:2016年7月4日「教え~序文(2/2)~」)