1972年、彼がカルロスに出会った頃、なにかが起きるという予感に満たされていた。Johnは、夜、ピアノに向かって作曲をしていた。やがて疲れたので暖炉の前のカウチに横になっていた。
窓から暗い夜空を見上げていたら突然、恐怖におそわれ、霊気のような寒気を感じた。恐ろしくなった彼は寝室に行き寝ている妻の横にもぐりこんだ。
そして彼が横になるとすぐにそれが始まった。強風で木々の枝が折れ始めスコールのような大雨が降り始めた。風が吹き荒れ家を揺らした。まるでラグナ・ヒルズ(Laguna Hills)の半分が嵐の海の中に放り込まれたような感じだった。
彼の額から汗が噴き出した。なんとか落ち着こうとするとますます嵐は酷くなった。ついになすすべもなく諦め、このまま太平洋に流されてしまおうと覚悟した瞬間、すべてが静まった。完全な静寂!
汗だくになり、これはたぶん何かの幻覚だったんだと思ったときRuthが「静かになったわね」とつぶやくと寝返りを打つとまた寝息を立て始めた。
彼女も聞いたんだ!いやそうなのか?
彼の「分離したリアリティ」が見せた夢じゃなかったのか?
ライターのAdam Smithは、ある日ニューヨークでカスタネダのダブル(分身)に出会った。
カスタネダに会いたかった彼は、ニューヨークのSimon and Schuster(カスタネダの本を出している出版社)の階段を登っていた。Smithはカスタネダがエレベーターを嫌っていることを知っていたのだ。
何段か上ったところで彼はカスタネダと思しき人物に出くわした。彼は何とか話をしたいと思い本の話、文化人類学へのカルロスの貢献などについて話しかけた。
カルロスは終始うなずきながら早い足取りで階段を下りていった。
話しかけてる途中でSmithははたと思い立った。これがドン・ファンの秘儀の「ダブル」なのではないか?と。
そこでSmithは半ば冗談のつもりで、あなたは本当はカルロス・カスタネダのダブルなのではないですか?と尋ねた。
すると男は立ち止まり、うなずいて「そうです」と答えた。そしてニヤっと笑うとロビーの人ごみの中に消えていった。
カルロスは、『力の話』を出す何年も前からダブルについて考えており、人々にさまざまなトリックをしかけてきた。
1973年の2月、カルロスは『力の話』の出版の打合せをしにニューヨークに来た。
彼は私に数日付き合ってくれと言ってきた。私はもう何年もカルロスと会ってなかったので痩せた身体にダークスーツ、コートの姿に驚かされたが、笑い顔や魅力的な話し方は変わらなかった。
私たちはタクシーでDrake Hotelで夕食をとった。彼はアルコールを飲まなかった。
私は最近読み終わった『イクストランへの旅』について話をしたかったが彼は拒んだ。
(初出:2018年8月8日)