「君の友達に会わせてくれるかな」カルロスが訛のある英語で静かに言った。
彼は痩せていて5フィート5インチ、広めの鼻、高い頬骨、厚い胸板そして山岳地域のインディアン的な短い足、ヘアオイルをつけて額の前にたらした黒いカールヘア。
左目の光彩が浮き上がってるように見え、いつもどこか遠くを見ているような印象を与えた。
いわゆるハンサムではなかったが、マーガレットはカルロスがとても魅力的だと思っていた。彼は彼女をマルガリタまたはマヤヤ(Mayaya)と呼んだ。
彼が耳元でささやくととてもエキゾティックだった。
たまに彼女の話に真剣に耳をかたむけていると彼の目が彼女の魂を吸い取るように感じた。
彼がステージでスポットライトを浴びているときなど華やかで情熱的で浮かれたように自分の人生、芸術、夢、恐れや欲望を何時間も語ることができた。
知らない人間の間では人見知りをするが、内輪の集まりでは活き活きしていた。彼はストーリーテリングについては天賦の才を持っていたし、素朴なユーモアのセンスを持っていた。
彼の存在感。徹底した自己管理のため彼とのつきあいは非常に疲れるものだったまるで——まるで彼女に集中的に向かってくる純粋なエネルギーでできた波に次から次へと吸い込まれるようだった。
五年に渡るカルロスとの奇妙で強引なつきあい方のせいでマーガレットは世の中でただ一人の女性になってしまった気がした。
しかし、カルロスは時に数週間も行方をくらました。不在期間はカルロスとつき合う場合の代償だった。
カルロスを本当に愛してしまったので彼がいなくなるのは辛かった。
彼からはなにもいらなかった、ただ一緒にいられればそれで幸せだった。彼が行ってしまうとなにか重要なものが欠けてしまった感じだった。
彼の風変わりな気の使い方が好きだった。
でも彼が自由なら私だって自由だ。
「入ってこないで」ドアを少し開けるとマーガレットが言った。
「どうか帰って。いつかまた話しましょう」
「いや」カルロスが言った「ただ入って彼にあいさつをして少しだけ話したいだけなんだ」
マーガレットはカルロスに洋服店ではじめてあったときから一目惚れだった。
二度目に会ったとき自分から名前と住所を書いたメモを渡した。
(上記の洋服店のエピソードは割愛しました)
それから毎晩ゴダードの夢のテクニックを使ってカルロスを呼び寄せようとした。
そして6か月後に夢がかなった。
1956年の6月の金曜の9時にドアベルが鳴ってカルロスが彼女の人生に入ってきた。
彼らの関わりはこれから15年に及ぶ。
カルロスはマーガレットより10歳若く、ロサンジェルスのコミュニティカレッジで心理学を専攻している二年生だった。彼はイタリアで1931年の12月25日に生まれたと言った。
スイスの花嫁学校(finishing school)の学生とブラジル人の非常勤の教授との非合法な関係で生まれた子供だと言った。
生まれてすぐ母方の叔母に引き取られサンパウロで育った。15歳のとき権威主義の私立校から退学させられてから世界中を旅した。イタリアで美術を学び、ロスに来る前はモントリオールとニューヨークで勉強をつづけた。
またアメリカ陸軍情報部(U.S. Army Intelligence)を退役したとも言った。軍役についてはあいまいで韓国とスペインにいてお腹から鼠蹊部にいたるアザは戦闘の際、銃剣で負った傷だと言っていた。
(初出:2016年10月23日)