講義はカルロスが書いた博士論文に基づいていた。論文を参照したり、学生たちのディスカッションのテーマとして使われた。
学生たちの中でも特に熱心だったRussとRosieが中心となりはなかなか写しを渡そうとしないカルロスに言い募って、少しずつコピーさせてもらい自分たちで教科書を作った。
Russは自分用に二冊作成した。一冊は緑、もう一冊は茶色のフォルダーで綴じた。それがカルロスのオーラの色だからだそうだ。
他の学生たちには、頭が変なんじゃないかと考えたがカルロスが社会科学棟の724号室に仮入室した時、彼のオーラの色をはっきりと見たのだ。
それは突然訪れた。彼と彼の仲間たちがカルロスを7階で待っていたときだ。壁がゆっくりとベリーダンスをするようにうねり始めた、風の乗って流れてくるブルーグラスミュージックのような感じに。
彼と仲間たちは、リノリウムの床に滑るようにくずれおち壁に背中をもたせかけたままカルロスを待つことになった。
少し経つと、廊下がライム色のゼリーでできたチューブのようになり光りだした。何百万マイルも伸びてゼリーの道をカルロスがいつものようにゆっくりと歩いて来た。
通路が放っている光はカルロスの体にあたると緑色に光った。
緑色だった。ネオンライトのような天井の下をRussはカルロスが歩くと彼が放っているオーラが弱くなったり膨らんだりした。
ついにカルロスが彼らの前に着いた。
床の上に座っている二人の若者を横目で見ながら事務所の扉の鍵を探している。
「やぁ」カルロスはドアを開けながら言った。
「どうも」とRussが答えた。
カルロスは軽くうなずいてまばゆく緑色の光のかたまりの中に立っていた。
教室にいるときのカルロスのオーラは茶色に思えたが、ここでは緑だとRussは”理解”した。
Russは、茶色のオーラはカルロスがすごく不思議な話をするときに出る力と関係があるとわかった。たとえば、バイリンガルのコヨーテと会話をしたエピソードや、ドン・ヘナロが一瞬で遠くに移動した話などをするときだ。どんなに馬鹿げて聞こえる話などこれまで誰も異論をはさんだことがなかった。
学生たちが合理的な答えを探すことは、カルロスは最も嫌っていた。
学生たちは、カルロスの体験を幻覚か催眠をかけられた体験ととらえていたが、カルロスは彼らが理解することを望まなかった。
クラスの中で最も疑り深い学生はいつもカルロスを実証主義や唯物論的な議論に引きずり込もうとしていた。
「ドン・ファンのやり方というのは、神学の基本に内在している不完全で暫定的な仕組みに置き換えられることを目指しているのではないでしょうか?」(何言ってるかチンプンカンプンです)その学生は真摯さを装ってカルロスを見つめた。
(初出:2018年7月30日)